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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)1092号 判決

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一五九万四七二六円及びこれに対する昭和五五年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外上島養親男(以下、上島という)は被告に対し、左記債権を有していた。

金額 金一五九万四七二六円

但し、上島所有にかかる大阪市東区東雲町二丁目二〇六番地の一の宅地三〇八・六六平方メートル(以下、本件宅地という)につき、昭和五四年三月一日、土地区画整理法に基づき同市同区玉造二丁目一七番一三号の宅地二〇一・四五平方メートルに換地処分したことによる清算金(以下、本件清算金という)

2  原告は、昭和五四年一〇月一日、大阪法務局所属公証人松田政夫作成昭和五四年第二二九号準消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づき、上島に対する金一五九万四七二六円の債権の弁済に充てるため、上島が被告に対して有する本件清算金につき差押・転付命令(大阪地方裁判所昭和五四年(ル)第三四六一号、同年(ヲ)第三七五四号)を受け、同命令は、その頃上島及び被告に到達した。

3  よつて、原告は、被告に対し、右転付を受けた本件清算金一五九万四七二六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年三月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告がその主張の日にその主張にかかる債権差押・転付命令を受け、これがその頃被告に到達したことは認め、その余の事実は知らない。

三  抗弁

土地区画整理法第一一二条第一項は、根抵当権等が設定されている宅地について清算金を交付する場合には、施行者においてその清算金を供託すべき旨を定めているところ、本件宅地には不動信用金庫および大阪府中小企業信用保証協会のためにそれぞれ根抵当権が設定されていたため、被告は昭和五四年一二月一四日本件清算金を供託したものである。なお、同法条項は、供託前に既に差押・転付命令が発付されていても適用があるというべきである。

以上のごとく、被告は上島に対する清算金交付について供託により履行ずみであつて、原告は被告に対して直接清算金の支払を請求する権利を有しない。

四  抗弁に対する認否および反論

抗弁事実は争う。

本件清算金は、被告が供託する前に原告において差押・転付命令を受け、原告に移転しているわけであるから、上島または物上代位権者を被供託者とする供託は原因を欠く無効なものである。土地区画整理法第一二二条第一項の規定は、施行者に供託を義務づけたにとどまり、この規定によつて、原告の本件清算金に対する供託前の差押・転付命令の効力は失われるものではない。

第三  証拠(省略)

理由

一、請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二、同2の事実のうち、原告が昭和五四年一〇月一日本件清算金につき、原告を債権者とし被告を第三債務者とする大阪地方裁判所昭和五四年(ル)第三四六一号、同年(ヲ)第三七五四号の債権差押・転付命令を受け、同命令がその頃被告に到達したことについては、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四号証の一および弁論の全趣旨によれば、その余の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

従つて、上島が被告に対して有していた本件清算金請求権は右転付命令によつて原告に移転したものといわなければならない。

三、そこで、被告の抗弁についてみるに、土地区画整理法第一一二条第一項は、施行者において、質権・抵当権等が存する宅地について清算金を交付する場合には、これら担保権者から供託しなくてもよい旨の申出がない限り、清算金を供託しなければならないと定めているところ、いずれも成立に争いのない乙第一、第二号証、第三、第四号証の各一、二および第五、第六号証によれば、上島が所有していた本件宅地は、土地区画整理法第三条第四項に基づいて、大阪市長を施行者とする大阪都市計画事業東地区復興土地区画整理事業区域内にあり、昭和五四年一月二二日に同法第一〇三条に基づく換地処分の通知が行われ、換地を同市東区玉造二丁目一七番一三の宅地二〇一・四五平方メートルとし、更に清算金として金一五九万四七二六円を交付することとなり、同処分は同法第一〇三条第四項に基づいて昭和五四年二月二八日に公告されたうえ、本件清算金は同法第一〇四条第七項に基づいて同年三月一日に確定したこと、ところで、その当時本件宅地については、不動信用金庫を権利者とする根抵当権(昭和四〇年五月一一日受付元本極度額金五〇〇万円)及び大阪府中小企業信用保証協会を権利者とする根抵当権(昭和四九年一一月一日受付極度額金三四六〇万円)が設定されていて、これら根抵当権者が被告に対し、本件清算金を供託しなくてよい旨の申出をしていなかつたため、被告は土地区画整理法第一一二条第一項に基づいて、これら根抵当権者または上島を被供託者として、昭和五四年一二月一四日大阪法務局に本件清算金を供託したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

してみると、被告は右供託により本件清算金支払義務を既に履行ずみであり、原告は直接被告に対して本件清算金を請求する権利を有しないというべきである。

四、もつとも、原告は、本件清算金は、被告が供託をした昭和五四年一二月一四日以前である同年一〇月一日差押・転付命令により原告に移転しているわけであるから、上島または物上代位権者を被供託者とする右供託は原因を欠く無効なものである旨及び土地区画整理法第一一二条第一項の規定は施行者に供託を義務づけたに過ぎず、この規定によつて、原告の本件清算金に対する供託前の差押・転付命令の効力が否定されるものではない旨主張する。

しかしながら、同法条項の立法趣旨はもともと担保権者の権利を保護しようというものである。いうまでもなく、担保物権の効力は、担保の目的たる不動産の滅失または毀損によつて債務者が受くべき金銭その他の物に対しても及ぶ(物上代位権)のであるが、この権利を行使して代位物により優先弁済を受けるためには、代位物が債務者に払い渡され又は引渡される以前に、これを差し押えねばならない。本件の場合、本件清算金が物上代位の目的となる金銭であることは明らかである。従つて、これが施行者から直接宅地所有者に払い渡されてしまうと、担保権者が物上代位権を行使することができなくなるおそれがある。そこで同法条項は、担保権者が物上代位権を行使しうるようにするため、清算金を供託させることにしたものと解される。

このようにみてくると、同法条項は、既に供託前に清算金請求権が第三者によつて差押えられ、転付命令が発付されている場合であつても、施行者に対し右命令と関係なく清算金を供託すべきことを命じているものといわなければならない。してみると、本件において、被告のなした供託は有効であつて、原告は被告に対し、直接本件清算金を請求することはできないというべきであるから、原告の右主張は独自の見解として採用することができない。

五、結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は結局理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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